広告主の42%が悩む、インフルエンサー施策の運用限界
フランスのインフルエンサーマーケティング市場は、2022年の3億2300万ユーロから2025年に5億8700万ユーロへ拡大しました。 一方で、全国規模の広告主の42%は今後も投資を続けるかについて明確に肯定していません。理由は成果ではなく、日々の運用の複雑さです。 海外では、インフルエンサー起用を単発施策として扱う段階から、データ、実行、効果測定を統合するクリエイターマーケティングへの移行が進んでいます。

What this means
この動きは、インフルエンサーマーケティングが実験的な施策から、広告予算の中に組み込まれる本格的な投資領域へ変わったことを示しています。 市場が拡大すると、課題はキャスティングや投稿数ではなくなります。多数のクリエイター、複数市場、複数媒体、契約、ギフティング、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の管理をどう一貫して動かすかが競争力になります。 日本企業にとって重要なのは、インフルエンサー起用を短期リーチ獲得の施策として見るのではなく、ブランドに合うクリエイター、顧客、ファン、専門家との長期関係を資産化する発想へ切り替えることです。
Traackr(クリエイターマーケティングツールを提供する企業)が「広告主の42%がインフルエンサーマーケティングを複雑すぎると感じる理由」を公開。→ フランスでインフルエンサーマーケティング投資が急拡大する一方、広告主の多くが運用の複雑さに直面していることを示す内容です。→ 新しいのは、課題が成果不足ではなく、クリエイター選定、契約、ギフティング、効果測定を大規模に回す実行体制に移っている点です。→ 日本のブランド担当者は、フォロワー数の大きい人物への単発投稿依頼から、信頼できるクリエイターと継続的に関係を築くクリエイターマーケティングへ運用設計を見直す必要があります。
フランス市場は急拡大したが、成長の壁は運用にある
Traackrが取り上げたのは、ARPP(フランス広告自主規制機構)とFrance Pub(フランスの広告投資調査会社)によるインフルエンサーマーケティング投資調査です。調査によると、フランスの純投資額は2022年の3億2300万ユーロから2025年に5億8700万ユーロへ拡大しました。
インフルエンサーマーケティングは、フランスの総コミュニケーション支出の1.7%、デジタル投資の5.2%を占めるまで成長しています。2025年には市場全体の広告費が1.3%減少した一方、この領域は13.1%成長しました。
しかし、成長の裏側で全国規模の広告主の42%が、今後も投資を続けるかについて「未定」と答えています。理由は費用でも、ブランド毀損リスクでも、効果測定への不信でもありません。最大の理由は、施策を大規模に運用することの複雑さです。
従来型のインフルエンサーマーケティングは、規模が大きくなるほど詰まる
従来のインフルエンサーマーケティングは、フォロワー数の大きい人物を選び、単発キャンペーンで投稿してもらい、短期リーチや表示回数を見る設計が中心でした。小規模な施策では、この進め方でも一定の成果を確認できます。
しかし、投資額が増え、対象国や商品カテゴリ、媒体が増えると状況は変わります。5人のインフルエンサーを管理するのと、500人のクリエイターを管理するのでは、必要な仕組みがまったく違います。
クリエイターの発見、候補者の精査、ブランドとの適合性、契約、投稿内容の確認、ギフティング、法令対応、効果測定が分断されると、担当者は意思決定よりも調整に時間を使います。ここに従来型の限界があります。
課題はデータ不足ではなく、次に何をすべきかが見えないこと
Traackrは、現在のブランドは以前より多くのクリエイターデータを持っていると指摘しています。TikTok、Instagram、YouTube、代理店レポート、提携販売網、社内分析画面など、情報源は増え続けています。
問題は、データが多いこと自体ではありません。複数のダッシュボードや報告書が並んでも、「明日どのクリエイターに投資すべきか」「どの市場で競合に負けているのか」「どのUGCが売上や信頼に効いているのか」が見えなければ、実行にはつながりません。
この変化は、検索されるための露出を増やす発想から、信頼される人に推薦される状態をつくる発想への移行でもあります。ブランド自身の発信だけでなく、クリエイターや顧客、ファンの言及が購買前の判断材料になります。
意思決定エンジンが求められる理由
Traackrは、自社の仕組みを意思決定エンジンと呼んでいます。意思決定エンジンとは、データを集約するだけでなく、次にどこへ投資し、誰と組み、どの施策を実行すべきかまで判断しやすくする仕組みです。
同社が提示する考え方は、まず全媒体のブランド言及やクリエイター情報を統合し、競合との話題占有率を把握することです。話題占有率とは、特定領域において自社や競合がどれだけ言及されているかを示す割合です。
そのうえで、候補クリエイターへの連絡、ギフティング、契約確認、投稿条件の共有、成果測定を同じ流れで動かします。これは単なる分析ではなく、分析から実行までをつなぐ運用基盤です。
フォロワー数より、ブランドとの適合性と信頼が重要になる
記事内の例では、グローバルな美容ブランドが米国、英国、フランスで秋の施策を計画する場面が示されています。競合がフランスのTikTokで自社の2倍の成果を出している場合、その差を生んでいるクリエイター群を分析します。
重要なのは、単にフォロワー数が多い人を探すことではありません。競合の伸びに貢献している中規模クリエイターの中から、自社の対象顧客と視聴者が重なり、ブランド毀損リスクが低く、継続的に関係を築ける相手を見つけることです。
ここでKPI(重要業績評価指標)も変わります。表示回数や一時的な反応だけでなく、獲得された投稿、引用、コミュニティ内での信頼、販売への貢献、継続的なUGC創出を見ます。フォロワー数から、適合性、信頼、制作力へ評価軸が移っています。
日本企業が更新すべきは、施策単位ではなく関係性の設計
日本でも、インフルエンサー起用、アンバサダー施策、UGCマーケティングは広く使われています。ただし、多くの現場ではキャンペーンごとに候補者を探し、投稿してもらい、レポートを見て終わる運用が残っています。
クリエイターマーケティングとは、フォロワー数の大きい人に単発投稿を依頼する施策ではありません。ブランドにとって信頼されるクリエイター、顧客、ファン、専門家と継続的な関係を築き、本物のUGCとコミュニティ内の信頼を積み上げるマーケティングです。
そのためには、単発キャンペーンの成果だけで判断するのではなく、誰がブランド理解を深めているか、誰のコンテンツが顧客の判断に影響しているか、どの関係が継続的な推薦につながっているかを管理する必要があります。
まとめ
フランスのデータが示すのは、インフルエンサーマーケティングが伸びているという単純な話ではありません。市場が拡大した結果、運用の複雑さを解けるブランドと、調整業務に埋もれるブランドの差が広がっています。
日本のマーケティング担当者にとっても、課題は同じです。フォロワー数、単発投稿、短期リーチを中心にした施策は、規模が大きくなるほど再現性を失います。次に必要なのは、クリエイターとの長期関係を管理し、UGCと信頼を継続的に生み出す仕組みです。
これは一時的な海外トレンドではありません。ブランド発信からクリエイターやコミュニティの推薦へ、単発施策から関係性の蓄積へと重心が移る構造変化です。インフルエンサーマーケティングは、クリエイターマーケティングへ進化する段階に入っています。